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大阪地方裁判所 昭和46年(人)2号 決定

請求者 甲野花子

右請求者代理人弁護士 岡田和義

同 木村五郎

拘束者 甲野太郎

右代理人弁護士 松井城

同 北河安夫

被拘束者 甲野一夫

右国選代理人弁護士 岡原宏彰

主文

本件につき当裁判所が昭和四六年六月一日なしたる人身保護命令を取消す。

理由

一  請求者からなされた本件人身保護請求の理由は、別紙人身保護請求書に記載のとおりである。

二  そこで、当裁判所は準備調査(人身保護法九条)をなし、昭和四六年六月一日人身保護命令を発し、本件審問期日に被拘束者を出頭させるよう拘束者に命じ、爾来関係者の審問期日を続行してきたところ、同月二九日の審問期日において請求者から書面をもって本件人身保護請求を取下げる旨の申立てがなされた。その理由とするところは、拘束者が任意に被拘束者を請求者に引き渡し、既に拘束状態は解消した、というにある。

三  一件記録によると、拘束者は昭和四六年六月一六日自発的に被拘束者を請求者に引き渡し、被拘束者は現在請求者の下で手厚く監護養育されていることが認められる。そして、請求者からなされた右取下げは適法である(人身保護規則三五条一・二項)。

四  ところで、人身保護請求の取下げがなされた場合、同規則三五条三項には「……さきに発した人身保護命令を取り消し、……、且つ、被拘束者に出頭を命じ、これを拘束者に引き渡す旨の裁判をしなければならない」と定めるが、右規定の後段は人身保護請求の取下げは請求者が拘束者による被拘束者の拘束を承認する場合になされるのが通常であることおよび同規則第二五条により被拘束者が裁判所によって監護されているものであることを前提とするものであって、本件の場合の如く、拘束者が被拘束者を自発的に請求者に引渡し、被拘束者が請求者の監護養育するところとなり、拘束状態が解消したことを理由として取下げがなされた場合には、(拘束者の右行為は、形式的には人身保護規則第二五条に違背するが、同条の法意は被拘束者の人身保護を厚くし、あわせて被拘束者の審問期日における出頭を確保するにあると解されるので、従前母である請求者の監護のもとにあった幼い被拘束者が、請求者の承諾なく不法に父である拘束者のもとに連れ去られたとすることを請求理由とする本件の場合には、拘束者が請求者に対し自発的に被拘束者を引き渡したことを不法とする実質的理由はない。)右の被拘束者を拘束者に引き渡す旨の裁判をなすべきことを定める部分は、条理に反し適用されないものと解するのが相当である。

よって右規則第三五条三項を準用し、さきに当裁判所がなした人身保護命令を取り消すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 井上三郎 裁判官 矢代利則 弓木龍美)

〈以下省略〉

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